ルクセンブルク貿易投資事務所では6月29日火曜日に、「欧州アクセラレーターに聞く、スタートアップ海外展開成功の鍵」をテーマにしたウェビナーを、政府のイノベーション促進機関であるルクスイノベーションと、大手通信企業Vodafoneのアクセラレーター『Tomorrow Street』、シンガポール・ルクセンブルク・シリコンバレーの3拠点でディープテックスタートアップに投資、支援する『R3i ventures』、そしてアジア系スタートアップ企業の欧州市場参入をハンズオンで支援する『LUXKO』、と各々独自の強みを持つ民間アクセラレーター3社をゲストに迎えて開催した。モデレーターは世界のスタートアップエコシステムに精通し、多くの企業のメンター・アドバイザー実績もある森若幸次郎氏(株式会社シリコンバレーベンチャーズ 代表取締役社長兼CEO)にお願いした。

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■ゲストスピーカー:

■ゲストモデレーター:

森若幸次郎 (Prof. John Kojiro Moriwaka) 氏 株式会社シリコンバレーベンチャーズ 代表取締役社長兼CEO

このウェビナーでは、ルクセンブルクの小国ならではのスタートアップエコシステムの特徴や、各々のアクセラレーター独自の強みやノウハウ、経験を伺いつつ、スタートアップの欧州やグローバル展開へのアプローチについてディスカッションが行われた。

■プログラム (カッコ内の数値はYoutube映像内での開始時間目安)

  • ルクセンブルクスタートアップエコシステムの特徴や資金調達・支援オプション(07:00-)
  • Tomorrow Streetが提供する大手通信企業ボーダフォンのグローバルネットワーク(20:00-)
  • R3i Venturesのアジア、欧州、シリコンバレーを拠点としたイグジット戦略(26:00-)
  • LUXKOによる韓国や日本のスタートアップに向けたハンズオン支援(32:00-)
  • パネルディスカッション / Q&A(38:00~)
  • 秋の関連イベント告知(1:07:00-)

このニュース記事では、ウェビナーの内容を要約して紹介する。

◇ウェビナーの録画映像こちら

 


[ピエール・フェリング駐日ルクセンブルク大使によるご挨拶]

FANUC楽天ispaceといったそれぞれの分野で日本を代表する企業がルクセンブルクを拠点に欧州市場で活動している例などに触れつつ、今同国が目指すデータ駆動経済戦略や、中小やスタートアップ企業にも広く開放する予定のスーパーコンピューター「Meluxina」の設置など、最新の取り組みを紹介した。またゲストの出身国の多様性(イギリス、韓国、オーストラリア)を例に、ルクセンブルクの開放性、国際性を強調し、最後に「ルクセンブルクは国が小さいが故に常にグローバルを考える必要があり、それはスタートアップ企業の姿勢とも共通している」として、日本のスタートアップ企業のグローバル展開にエールを送った。

[ステファン・ブレント氏(ルクスイノベーション)によるプレゼンテーション]

ルクスイノベーションでスタートアップアクセラレーション部門長を務めるステファン・ブレント氏より、ルクセンブルクのスタートアップエコシステムを紹介するプレゼンテーションが行われた。人口約63万人の同国には、現在400以上のスタートアップ企業が集積し、欧州のテストベッドとしてR&Dを行うのにも適した環境である事を説明。NVIDIAとルクセンブルク国立大学が共同で設立したAIのR&Dセンターや、ドイツ・フランスと3か国にまたがる自動運転技術やコネクテッドカー関連技術のためのテストベッドなどの具体例を紹介した。

また公的資金助成ツールとして、経済省提供の1社あたり最大15万ユーロ)アクセラレーションプログラム『Fit 4 Start』R&D資金助成制度、アーリーステージスタートアップ向けのデジタルテックファンド、SNCI(政府系銀行)による企業への直接投資(海外スタートアップのルクセンブルク法人なども対象)、様々な支援スキームを紹介した。

[ケネス・グラハム氏によるTomorrow Streetの紹介プレゼンテーション]

Tomorrow Streetはルクセンブルクの政府系インキュベーションTechnoportとルクセンブルクにあるボーダフォン・プロキュアメント・カンパニーの合弁企業であり、ボーダフォングループのグローバル戦略に合致するスタートアップ企業を対象に支援を行っている。スタートアップ企業はボーダフォンのグローバルネットワークを活用でき、具体的にはグループがサービスを提供している世界23か国+エージェント国43か国の計66か国6億人の顧客ネットワークへのアクセスを可能にする。スタートアップ企業のスカウトはアクセンチュアやamdocsなどのパートナーと提携して世界中で行っており、現在、アメリカやイギリス、中東などのスタートアップ企業8社がTomorrow Streetオフィスに入居している。最後に、2022年開催予定の、世界中からスタートアップ200社超総勢5000名超が参加予定のテックカンファレンス『ARCH SUMMIT』についても告知した。

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[リーサ・ソロードレ氏によるR3i Veturesの紹介プレゼンテーション]

R3i Venturesはルクセンブルクで行うアクセラレーションプログラムを通じ、スタートアップ企業の事業化、資金調達、R&D活動を支援する。一般的にはスタートアップ企業の97%は失敗するとされているが、R3i Venturesでは独自ノウハウにより失敗確率を僅か12%まで抑える。現在ルクセンブルクで提供するプログラムは2つある。[House of Deeptech]では、スタートアップに投資を行い、彼らのグローバルのネットワーク企業とのオープンイノベーションを加速させる。[House of Medtech]では、欧州での事業化、欧州医療機器認証(MDR)取得などをサポートする。ルクセンブルクは欧州市場でのProof of Concept, Proof of Valueを行うための鍵となるテストベッドとして位置付けている。両プログラムに参加している以下4社の実例が紹介された。

①リアルタイムヘルスケアソリューションの「STEMI」の欧州展開支援

②アルゼンチンの「VIEWMIND」の資金調達や2つの研究機関とのコラボレーション、CEマーク取得等の支援。現在はグローバル展開に向けてルクセンブルクへ本社移転手続き中。

③世界最大の保険会社をパートナーに持つマレーシアの「Naluri」がルクセンブルクで欧州向けプラットフォームを試験中

④イスラエルのサイバーセキュリティ「SIGA」の欧州市場参入支援

最後に、9月21日に開催される日本の女性起業家を対象にした「SHE LOVES TECH」(世界最大の女性起業家イベントの日本版) に関する告知を行った。

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[セミ・パーク氏のLUXKO紹介プレゼンテーション]

LUXKOは韓国や日本のベンチャー企業の欧州進出支援を行う。具体的には進出前のマーケットリサーチやインキュベーションから資金調達や潜在顧客やパートナーとの交渉など、ケースバイケースのハンズオン支援を行い、コンサルティングサービスを提供する。すでに韓国の宇宙ベンチャー「CONTEC」やAI企業「INIFINIQ」などが、LUXKOの1年に及ぶコンサルテーションを通じ、ルクセンブルク法人を設立し、欧州市場に進出。またセミ氏は2be.lu(VC)にも所属しており、韓国のブロックチェーンベンチャーへの投資を通じて資金調達支援も行った実績もある。また今年から、大手日本企業やグローバル企業でのマーケティング経験が豊富な、日本語、英語、フランス語、スペイン語に精通する日本プロジェクトマネージャーの浪川ラケル氏もLUXKOに加わり、日本企業の支援体制を一層拡充させている。

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[パネルディスカッション]

パネルディスカッションではまず冒頭、ゲストモデレーターの森若氏が各ゲストに、ルクセンブルクのスタートアップエコシステムの印象、ルクセンブルクを選ぶ理由について質問した。

イギリスから3年前にルクセンブルクに赴任してきたケネス・グラハム氏(Tomorrow Street)は、「ルクセンブルクのエコシステムはエネルギーや情熱があり若い起業家を支援する環境が整っている。」と印象を語った。韓国出身のセミ・パーク氏(LUXKO)は「就労人口の50%以上が外国人で、ダイバーシティと多文化・多言語がルクセンブルクの特徴。インキュベーションに行くと、世界中から起業家が集っているのはルクセンブルクならではの雰囲気。韓国のスタートアップ企業も政府の後押しもあり欧州進出に意欲的で、パンデミック下でも問い合わせ件数は増え続けている。」と語った。オーストラリア出身で、シリアルアントレプレナー、現在はシリコンバレー、シンガポール、ルクセンブルクの3拠点で活動するR3i Venturesのリーサ・ソロードレ氏は、「カナダやオーストラリア政府、イスラエル、南米のスタートアップ企業にもアドバイスする立場として、Brexit後にイギリスに代わる拠点を探していた。2019年1月に2週間ほどFit 4 Startという政府のアクセラレーションプログラムに参加。その時の経験がとても良かったため、以降ルクセンブルクに拠点を構えて2年になる。現在R3i Venturesはカリフォルニア大学や病院、世界中の研究機関、各国政府機関とネットワークを持ち、ルクセンブルクから世界に向けたビジネス展開を支援している。」とルクセンブルクを拠点にしたきっかけを語った。加えて「ルクセンブルクは今ニュースマートシティへの移行期であり、整った既存のインフラの上に、様々なイノベーション技術を実装できる多くの機会がある。政府や研究機関と一緒に取り組んでいく。これから何が起こるか本当に楽しみにしている。」と語った。

 

次に森若氏は各アクセラレーターがどのようにスタートアップ企業のパートナー探しを支援しているのか?と質問。

ケネス・グラハム氏は「ルクセンブルクのボーダフォン・プロキュアメント・カンパニー(VPC)は、グループ全体のグローバルの調達業務やデバイスオペレーションを担う、ボーダフォングループの中でも重要な戦略ハブ。2年前からボーダフォンは伝統的な通信企業から、IoTやサイバーセキュリティ、DXについて総合的なテクノロジーソリューションを提供する企業に大きく変貌した。Tomorrow Streetを通じてボーダフォンのグローバルネットワークに加わる事で、世界中の顧客にソリューションを提供する機会がある。」と回答した。

セミ・パーク氏は「LUXKOは韓国や日本のスタートアップ企業、中小企業の支援に特化しており、経験上欧州とのビジネスカルチャーの違いはとても大きい。コミュニケーションや交渉の支援にきめ細かな対応を行っている。またパートナー探しという意味では、ルクセンブルク商業会議所がCESやVIVATECHなど世界の大規模カンファレンスに展示ブースを出すので、ルクセンブルク法人としてそれらの出展ブースに加わる事で、世界中の潜在顧客に出会えるチャンスも生まれる。」と紹介した。

リーサ・ソロードレ氏は「R3i Venturesがルクセンブルクで提供するHouse of Medtech、House of Deeptechは、両方とも最初の90日間で、セットアップと併行して市場調査や潜在的な顧客との対話を行い、その後プロダクト、サービス開発に取り組めるようにする。治験やR&Dのパートナー探しについても、時間はかかるが、腰を据えて関係構築に取り組んでいる。」と説明。さらにイグジット戦略について「出口戦略として4つの選択肢がある。伝統的なナスダックなどへのIPOやM&Aに加え、技術ライセンス供与やIP Tech Tradingといった方法も有り得る。例えばプレゼンテーションで最初に触れたデジタルヘルスAIスタートアップ企業のVIEWMINDのIPを日本のロボット企業が自社製品に活用する、なども考えられ得る。」と答えた。

 

森若氏はまたアジアのスタートアップ企業のルクセンブルクでの資金調達方法について尋ねた。

セミ・パーク氏は「2つの柱があり、一つは自身もコミュニティに加わっているLBAN(ルクセンブルクビジネスエンジェルネットワーク)。パンデミックによりオンラインでピッチ・選考を行い、エンジェル投資家を募る。投資家一人あたり20K ~70K(€)の投資が行われる。ルクセンブルクでシード投資を求める起業家にはとても有用。AIやフィンテック関連が多い。もう一つの柱はVCで、2be.luの例を挙げると、最近もEUR1milの投資をブロックチェーンスタートアップに行った。日本のスタートアップ企業でルクセンブルクを拠点に考えているスタートアップ企業にも同様に門戸は開かれており、他の欧州の大きなエコシステムよりルクセンブルクは資金調達へのアクセスも容易だと思う。」と説明した。

パネルディスカッションは上記以外にも現地法人のマネジメント体制や組織作りの話などにも触れ、また欧州・海外展開を目指す日本のスタートアップ企業に向けて「Let`s Make it Happen!」 (一緒に実現させよう!というルクセンブルクの国のブランディングスローガン)を唱和して終わった。

 

[秋のイベント告知]

最後にルクセンブルク貿易投資事務所より、2021年9月14-15日に開催予定の同国最大規模のテックカンファレンス『ICT SPRING EUROPE2021』 と今年からの新たなスタートアップ向けサイドイベント『Mastermind Summit』について、渡航は難しいかもしれないが、現在出展スタートアップ企業募集中である旨、また随時ウェブサイトやSNSを通じてアップデートをお知らせしていく旨を紹介し、ウェビナーを終了した。

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